「505、チェックアウト入りました」
インカムに入る声。私は手袋をはめながら、「はーい」と返事して、清掃カートを押してエレベーターに向かった。
ラブホテルの清掃員になって、もう2年になる。
最初はただのバイトだった。昼間の時間帯で、時給もよくて、誰とも深く関わらなくていい。でも、続けていくうちに、私の中で変な癖が育っていった。
たとえば、部屋の匂い。
ドアを開けた瞬間に分かる。「あ、さっきまでやってたな」って。
空気が湿ってて、どこか甘くて、生臭くて、混ざった香り。ベッド周りに立ち込める、あの“体液の混じった残り香”が、最近妙に……好きになってしまった。
この日もそうだった。
505号室。ドアを開けた瞬間、ムワッと肌にまとわりつくような空気が広がる。エアコンは切れてる。ベッドの上にはシーツのしわがぐちゃぐちゃになってて、枕が床に落ちていた。
「……ああ、これ絶対、何回もしてる」
誰もいないのに、そう呟いてしまう。
私は窓を開けて空気を入れ替えながら、ベッドの隅に近づいた。
まずシーツをはがす。うっすら濡れた部分が真ん中に残ってる。そこに顔を近づけると、ツンとした匂いが鼻に入ってくる。
精液と、愛液と、汗の混じった、生の匂い。
「……ほんと、すごい匂い」
それを嗅いでる自分が、どこかおかしいって分かってる。でも、止まらない。
ゴミ箱を開けると、くしゃくしゃになったティッシュが10枚以上。下の方はまだ湿ってて、指でつまむと少し重い。中には、使い終わったコンドームが2つ。片方は口が結ばれてなくて、中の液がまだ溜まっていた。
「……こんなに中で出されて……」
その瞬間、下腹部がぎゅうって締まった。
私は、股をきゅっと閉じた。制服の下、ショーツの中が少しだけ湿ってるのが分かる。
「やだ、また……こんなことで……」
控室に戻ると、先にいた同僚の美和さんがタバコを吸っていた。
「あの部屋、濃かったでしょ?」
「うん、ベッドのとこ、びしょびしょだった」
「でしょー? あれ絶対2回やってるって。ゴミ箱、ティッシュ何枚だった?」
「……12枚」
「ははっ、すご」
私たちは、たまにこうやって“戦利品報告”みたいなことをする。どんなカップルだったか、残ってた匂い、パンティーの忘れ物、濡れたティッシュの枚数。
まるで、そこにいなかったのにセックスの実況をするみたいに。
そして、たまに――それが変な方向に転がる。
「……ねえ、今日さ、上のロッカー……誰もいないし、久々にする?」
美和さんがそう言った瞬間、私は喉がゴクッと鳴るのを感じた。
「……うん、いいよ」
ふたり、休憩室の奥、掃除道具のロッカーの中。薄暗い狭い空間に滑り込むと、制服のボタンをひとつ外して、美和さんが私の耳に触れた。
「さっきのティッシュ、見せて」
私はポケットから、まだ温もりのあるティッシュを取り出した。清掃のふりして、一枚だけこっそり持ってきてた。
それを美和さんが鼻に近づけて、笑った。
「……男の子の、匂いするね」
「でしょ……さっきの、すごく濃くて……」
私の太ももに、美和さんの手がすべってくる。制服のスカートがめくられて、ショーツ越しに撫でられた。
「濡れてるじゃん……ほんとに、好きだよね。こういう匂いとか、残り香とか」
「……うん。たまんない……」
そのままロッカーの中で、美和さんに脚を開かされて、指をショーツの隙間から差し込まれた。
「んっ……っ、そこ、やだ……っ」
でも、ダメとは言わない。
私も、美和さんも、たぶんもう普通じゃない。
ティッシュに残る愛液や、ベッドに残る精液の匂いで、オナニーみたいに興奮してしまう。
それが日常の中にあるのが、ラブホ清掃という仕事の裏側なんだと思う。
今日もきっと、どこかの部屋に“匂い”が残ってる。
私はそれを嗅ぎ分けて、片づけて、でも……少しだけ集めて持ち帰る。
誰にも言えない、秘密のコレクション。