名前、たぶん聞いたけど、覚えてない。
聞いたときから、頭の中で“あの人”の名前で上書きしてた。
SNSで見つけたのは偶然だった。
推しに……めちゃくちゃ似てる子。
アイコンも、ちょっと雰囲気寄せてて。
DMの文体も、どこか“推しの言葉”をなぞってる気がして──
気づいたら、会う約束をしてた。
実際に会った彼女は、
アイコンよりも大人しくて、でも笑い方がそっくりだった。
俺はもう、その瞬間から“自分が自分じゃない”って気づいてた。
飲み屋から出て、
ホテル街のほうへ向かう流れになって、
断る理由は、どこにもなかった。
「──ほんとに、するの?」
彼女が、聞いた。
「うん……ごめん、でも……したい」
答えながら、俺はもう“推しの顔”を思い浮かべてた。
目をそらすように、唇を重ねた。
反応が、いちいち推しと重なる。
あの声に似てる。
あの肌の白さに、心が反応してしまう。
──抱きたい。
でも、ほんとうは……
“あの人”を抱きたいだけなんだ。
服を脱がせながら、
俺は彼女の顔をまともに見れなかった。
推しと似てるほど、罪悪感が増した。
でも身体は……熱くなってた。
首筋にキスを落とすたびに、
彼女が小さく喘いで、
その声に、“あの人の笑い声”を重ねてしまう。
「やだ……恥ずかしいよ……」
そう言った彼女の声は、
まるで推しが照れてるようで、
俺はもう、止められなかった。
中に入った瞬間、
彼女が体をすくめて、小さく声を漏らした。
「大丈夫……ゆっくりするから……」
自分で言っておいて、
どこかで、“推しにもこんな風に優しくしたい”って思ってた。
腰をゆっくり動かして、
彼女の中を満たしていく感覚の奥に、
「これが推しの中だったら──」って、
どうしようもない妄想が、浮かんで消えない。
彼女がイったとき、
俺はその顔を見なかった。
いや、見られなかった。
目を閉じて、
想像の中の“彼女”を見てた。
「……ごめん……ほんと、ごめん……」
声に出して謝った。
彼女は意味がわからないまま、笑ってた。
でも、俺は知ってる。
俺がイったのは、
彼女の中じゃなくて、
“推しの幻”の中だったってことを──
帰り際、彼女が言った。
「……また、会える?」
「……うん、また」
──きっと、もう会わない。
これ以上、幻を抱いたら壊れるから。
でも、
もしまた“あの人”に似た誰かが現れたら──
俺は、また、同じことを繰り返すかもしれない。
たった一度、
推しに似た誰かに、
「好き」すら言えないまま、
欲望をぶつけて、
イッた夜のことを、
──俺は、きっと、一生忘れられない。