夫の隣に寝ていても、眠れなくなったのは、
たぶん……1年くらい前からだった。
会話はある。生活の中の連絡や、スケジュールや、
あれ買っといて、あれ捨てといて──
でも、名前を呼ばれなくなった。
セックスは、最後いつだったか思い出せない。
誘っても、冗談みたいにかわされて。
諦めて、女をやめたふりをするのにも慣れてきた頃だった。
彼とは、会社の飲み会で会った。
年下。けれど、落ち着いていて、目がちゃんと見れる人だった。
私が笑って話すと、ちゃんと笑い返してくれて、
話すよりも、聞くのが上手だった。
気づけば、LINEが始まっていて、
「疲れたら、いつでも連絡して」
そんな一文が、やけに優しく感じた。
その夜は、なんとなく家に帰りたくなかった。
理由はなかった。
ただ、家に帰って「おかえり」も「おつかれ」もないまま、
音のない部屋に帰るのが、怖かった。
「……今、会える?」
夜の公園で待っていたら、彼は10分で来てくれた。
缶コーヒーを2本買って、私の隣に座ってくれた。
「……手、冷たくないですか?」
その手を、そっと包んでくれたとき、
何かが切れた。
泣くつもりなんてなかったのに、
涙が止まらなかった。
ホテルに行こう、と言われたわけじゃない。
私の方が、彼の袖を引っ張っていた。
「……誰かに、抱きしめてほしかっただけなのに」
それでも、
ベッドに沈んで、優しくキスされたとき、
全身がびっくりするくらい震えた。
「触れられる」ことに、
私の体が、こんなにも飢えてたなんて。
下着をゆっくり脱がされるとき、
「きれいです」って言ってくれた。
それだけで、腰が抜けそうだった。
挿れられるとき、
彼はちゃんと目を見てくれた。
「痛かったらすぐ言ってください」
そう言って、何度も確かめるように動いた。
奥に届くたび、
私の中で忘れていた“快感”が、少しずつ蘇ってきた。
「はぁ……っ、ん……あ……っ」
声なんて出したの、何年ぶりだったんだろう。
誰にも聞かせてなかった喘ぎ声を、
この人は、全部受け止めてくれた。
名前を呼ばれたとき──
「◯◯さん……気持ちいいです……」
私は、
目を見開いたまま、涙と一緒に絶頂していた。
終わったあと、彼は私を抱きしめた。
「また、寂しくなったら来てください」って。
不倫なんて思ってない。
恋でもなかった。
ただ私は、
あの夜、“人”として抱きしめられたことを、
一生忘れないと思う。
愛されてなくてもいい。
せめて、
「女として、誰かの体温で泣けた」っていう記憶だけで──
私は、まだ、生きていける気がした。