私が下着を売り始めたのは、ただのお小遣い稼ぎのつもりだった。
年齢は34歳。
事務職で一人暮らし、特別困っているわけじゃないけど、生活にちょっとした刺激が欲しくて――そんな軽い気持ちで、「#裏垢女子」ってタグを使ってみた。
最初は怖かった。
でも、思ったより反応は早くて、「使用済みショーツ1枚3000円」でDMがどんどん来た。
リクエストもシンプルで、「3日履いて」「白いレースがいい」など、想定の範囲内。
ただ、ある日。
「常連になりたいです」とだけ書かれたDMが届いた。
アイコンも名前もなかったけど、言葉遣いが妙に丁寧で、即決で注文が入った。
最初の依頼は、「できれば排卵日前後のもので」。
ちょっと気持ち悪いと思ったけど、送ったら即日に入金があった。
しかも「香りが最高でした、次はパンティライナー付きでお願いします」と感想付き。
その後、その“常連”はどんどんリクエストをエスカレートさせていった。
「今日、会社でいっぱい動いた後のまま送ってください」
「ストッキングに染みた汗の匂いも追加でお願いします」
「もし可能なら、タンポンも…(衛生的に無理なら写真だけでも)」
正直、常識の外側に踏み込んでると感じた。
でも、それと同時に──妙な興奮を感じている自分にも気づいていた。
パンティのクロッチ部分が濡れているのを見て、
「これが売り物になる」って思うと、ゾクッとした。
彼は毎回、届いた下着の感想をくれる。
「月曜の分、湿り気が残ってて最高でした」
「匂いが3日目になるとまろやかになっていて、個人的に一番好きです」
「クロッチ部分に指を這わせて、香りを吸い込んだとき、ゾクゾクしました」
……そんなふうに、細かく“味わい方”を伝えてくる。
最初は冷静に読んでたけど、ある時ふと、自分でもその感覚を想像してしまった。
彼が、この布の匂いを嗅ぎながら、どんな顔をしているのか。
私の“そこ”の香りを吸い込みながら、どんな風に興奮しているのか。
気づけば、想像だけで体が熱くなっていた。
そこからは早かった。
「一枚、自分のためにも残しておこうかな」と思うようになったし、
彼の好みに合わせて、あえて1日履いたものをさらに寝るときにもつけ続けたりした。
今では、毎週末になると自分でクロッチ部分を確認して、
「あ、今日のは喜ばれるな」なんて思っている自分がいる。
ほんの副業のつもりだった。
だけど、たった一人の“変態な客”によって、私の中のなにかが覚醒してしまった気がしている。
連絡は今も続いている。
今週のリクエストは、「3日履いたパンティと、その週の一番濃いおりもののついたライナーのセット」。
……ちゃんと用意してある。
明日の朝、郵便局へ持っていくつもりだ。