-人妻と配達員、その夜から。-
第1章:出会いと衝動(夜1日目)
ニュース速報が流れた午後。
世界はあと5日で終わると、誰かが決めた。
玄関のチャイムが鳴ったのは、そんなニュースの直後だった。
陽子は、手元のカップを置いて、静かに立ち上がった。
「佐藤運輸です」
その声には、もう何度も聞き覚えがあった。
「……ごくろうさま」
扉を開けた先に立っていたのは、
いつもの青年――涼だった。
彼女の荷物を渡し終えると、
彼は、なぜかその場から動けずにいた。
「……ねえ、入っていかない?」
その一言は、自分でも驚くくらい、自然だった。
リビングに入ると、陽子は冷蔵庫から麦茶を出した。
涼は、緊張したまま座っていた。
「……ニュース、見た?」
「はい……信じられないです」
ふたりの会話は、ぎこちないまま時間だけが過ぎた。
「ねえ……世界、あと5日で終わるなら、
 あなたは何がしたい?」
陽子が、麦茶を置いて彼のほうを見たとき、
そこには理性と衝動の境界があった。
「……後悔しないこと、ですかね」
「ふふ、真面目なんだ」
陽子は、すっと立ち上がって涼の隣に座ると、
ゆっくりと、指を彼の手の甲に滑らせた。
「……ねえ、抱いてくれる?」
涼の目が揺れた。
「こんなこと、きっと明日には言えないから」
手が触れ合うだけで、体温が跳ね上がる。
陽子の唇が、涼の耳元にそっと触れた瞬間、
ふたりの重心が崩れるように、互いの体を求め合った。
彼の手が服の隙間から入り、
陽子の肌をなぞるたびに、
10年の空白がひとつずつほどけていく。
「奥さん……いいんですか……?」
「陽子、って呼んで。今だけでいいから……」
体が重なると、すべての音が遠ざかった。
シーツが乱れ、呼吸が混ざり、
彼女は声を漏らしながら、何度も彼の名前を呼んだ。
「陽子さん、もう……」
「いいの、全部、出して……わたしの中に……」
その夜。
涼は、はじめて誰かを“終わる世界の中で愛した”。
そして陽子は、10年ぶりに“女として目覚めていた”。
玄関には、もう配達の荷物はなかった。
けれど、心には確かに、
“愛という荷物”が、届けられていた。
第2章:朝になっても、きみの匂いが消えない
世界が終わるまで、あと4日。
朝。
カーテン越しの陽射しが部屋に差し込んで、
陽子は静かに目を覚ました。
ベッドの隣には、まだ眠っている涼がいた。
その寝顔を見ながら、
“現実”がそっと胸に戻ってくる。
「私……何してるんだろう」
小さく呟いても、答える人はいなかった。
でも、昨夜のぬくもりだけは、確かにそこに残っていた。
肌に触れる空気さえ、違って感じるほどに。
バスルームに入り、
シャワーを浴びようと服を脱いだ瞬間、
内腿についた白いものが、彼との夜を確かに物語っていた。
「……ごめん、忘れられそうにないや」
濡れた指先でなぞるたびに、
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
まるで、涼の体温がまだ残っているみたいに。
シャワーの音で彼が目を覚ましたのは、それから10分後だった。
「陽子さん……?」
「おはよう。ちゃんと寝れた?」
「はい……けど、夢みたいです」
ふたりは笑い合ったけど、
その空気の中には、もう昨日までの“線引き”はなかった。
朝食を一緒にとるのも初めてだった。
パンとコーヒーだけの食卓が、
妙に居心地よくて、変にくすぐったかった。
「今日も来てくれる?」
「はい……って、配達ですか?」
「それもあるけど……わたし、まだあなたに満たされ足りないの」
その言葉に、涼の瞳が揺れる。
「じゃあ……今日も、ちゃんと届けに来ます」
「ふふ……よろしくね、“あなた”」
彼が帰ったあとも、陽子の体からは、
彼の匂いが消えなかった。
むしろそれを、
消したくないと思っている自分がいた。
“あと4日”。
この匂いが、記憶よりも長く残ることを、
どこかで願ってしまっていた。
第3章:欲望は、理性よりも速く走る
世界が終わるまで、あと3日。
午後3時すぎ、再びチャイムが鳴った。
陽子は、もう待ちきれない顔で玄関に立っていた。
「……早かったね」
「本当は明日の荷物も今日まとめちゃいました。……会いたくて」
扉を閉めると、ふたりはすぐに唇を重ねた。
キスというよりも、
お互いの呼吸を確かめるような“交わる前の本能”だった。
「理性が……ほんとに止まらない」
「止めないで。わたしも……欲しくて仕方ないの」
陽子はそのまま涼の手を引いて、ソファに押し倒す。
「今日はベッド、間に合わないかもね」
「……じゃあ、ここで」
服を脱がせる手が震えていた。
肌が見えるたびに、涼の目が熱くなる。
「昨日より……きれいだ」
「ふふ、言葉にすると余計恥ずかしいって、知らないの?」
ブラを外した瞬間、
乳首がひくっと反応する。
そこに涼の舌が這うと、
陽子はソファに爪を立てながら、
「あぁ……」と切ない声を漏らした。
下着越しに濡れているのがわかる。
指を入れた瞬間、とろりと粘った音が響いた。
「……もう、濡れてる」
「あなたが来る前から、ずっと……」
指が1本、2本。
陽子は腰を浮かせながら、首を振る。
「もう、お願い……入れて……涼のが欲しい……」
涼が自分のモノを導き、
陽子に挿し込んだ瞬間、
ふたりの理性は完全に崩れた。
パンパンと音を立てて腰がぶつかり合う。
陽子の脚が涼の背中に巻きついて、
声ももう抑えきれなくなっていた。
「奥まで……来て……涼……」
「陽子さん……もう……っ」
「中に、出して……お願い……」
その瞬間、涼は深く沈み込んで、
陽子の奥へと、自分のすべてを注ぎ込んだ。
はぁ……っ、はぁ……っ、と荒い呼吸のまま、
ふたりはしばらく動けなかった。
「ごめん、また……」
「ううん。嬉しいの。……“わたしだけ”を欲しがってくれて」
欲望は、理性よりも速く走る。
そして、誰にも止められない。
“世界が終わる前に”、
ふたりは壊れるまで、交わる。
第4章:壊れたいの、あなたのなかで
世界が終わるまで、あと2日。
陽子は、朝から身体が火照っていた。
昨夜の熱が、まだ奥に残っている。
それどころか、もっと欲しくなっている。
午後、涼が来る前にシャワーを浴びた。
けれど、湯の中で思い出してしまうのは、
昨夜、背中を強く抱き締められたときの感触だった。
「……もうだめかも、わたし」
インターホンが鳴ったとき、陽子はもう息を整えられなかった。
「来て……すぐ……」
「えっ、あ……はい……!」
玄関を閉めたとたん、陽子は涼の胸に飛び込んだ。
そのままキス、キス、キス。
唇と唇、舌と舌が、溺れるように絡み合う。
ベッドに倒れ込むと、
陽子は自分でワンピースのボタンを外し、
涼の手を、自分の股間に導いた。
「ねぇ……壊して、わたしを」
「陽子さん……」
「奥まで突いて、何も考えられなくなるくらい……全部、壊して」
挿し込んだ瞬間、陽子の身体が跳ねた。
「っあ……っ、くる……っ」
腰を打ち付けるたび、
陽子の内側が涼を吸い込んで離さない。
ベッドのスプリングがきしむ音、
肌がぶつかる濡れた音、
絶え間なくこぼれる声。
「もっと、もっと突いて……!」
「陽子さん、もう、俺……!」
「出して、奥に……私の全部に、あなたの全部を……!」
その瞬間、涼は限界まで腰を押し込んで、
陽子のなかに熱いものを流し込んだ。
「っ……はぁっ、はぁ……壊されちゃった……」
ベッドの上、陽子は涙を流しながら笑った。
「でも……気持ちよかった。ほんとに」
“あと2日”。
ふたりはもう、恋人でもなく、
ただ“終末を生きる獣”として、求め合っていた。
最終章:最期の中出しを、愛と呼んでもいいですか?
世界が終わるまで、あと1日。
そして今夜が、ふたりに残された最後の夜だった。
「……明日で、終わっちゃうんだね」
ベッドの中、陽子がぽつりと呟いた。
「怖いですか?」
「ううん……あなたがそばにいてくれるから、怖くない」
静かな夜だった。
外の世界は、諦めと祈りに包まれている。
けれど、この部屋だけは、
ふたりの愛と熱で、まだ確かに“生きていた”。
涼の手が、陽子の頬をなぞる。
そのまま、胸を、腰を、脚を──
まるで“今夜だけの命”に刻むように、丁寧に触れた。
「ねえ……今日だけは、ゆっくり……奥まで、何度でも欲しいの」
「……わかってます。ちゃんと、感じててほしい」
ゆっくりと唇を重ねて、
熱い舌を絡めながら、ふたりは裸で抱き合った。
濡れた音が重なっていくたび、
陽子の脚が涼の腰に絡まり、
身体が勝手に震え、涙がこぼれた。
「ねえ……中に出して。
 ちゃんと、私のなかに“あなた”を残して……」
涼は深く沈み込みながら、
彼女の名を、何度も、何度も呼んだ。
「好きです……陽子さん。
 愛してるって、言わせてください……!」
「……うん、わたしも……
 もう、あなたのじゃなきゃ、いや……っ」
ふたりの動きが激しくなる。
最後の夜に、すべての鼓動を重ねるように──
「中に……出して……お願い……!」
「陽子さん……っ、いきます……!」
びくっ、と彼の体が震えた瞬間、
熱いものが陽子の奥へと溢れた。
何も言えないほど満たされて、
何も怖くないほど抱きしめられて、
陽子はただ、泣いていた。
「……ねえ、こんなに満たされるって、
 もう“愛”って呼んでもいいよね?」
「もちろん。……それ以外、何があるんですか」
“世界が終わる午後2時”まで、
ふたりはずっと、抱き合ったまま、離れなかった。
そしてふたりは、
最期の中出しを、たしかな愛と呼びながら、
静かに、終わりを迎えた。

 
					