俺は、妻を抱いていた。
シーツの上、静かな夜。
脚を絡めたまま、深くゆっくりと腰を沈める。
「ん……っ、やだ、奥……あたって……」
あたたかい。ぬるい。
いつも通りの、優しいセックスだった。
──なのに。
隣の部屋から、かすかに、吐息が混ざった。
一瞬、耳を疑った。
でも、止まった腰の奥に、背筋を這うように届いてくる。
「……くっ、あっ……ん、ふ……っ」
それは──妹の声だった。
俺は動けなくなった。
嫁の中に入ったまま、
耳だけが隣の壁に吸い寄せられる。
「……ん、大丈夫? 気持ちよくない?」
嫁が、俺の頬を撫でて、問いかけてくる。
「うん……気持ちいいよ」
嘘だった。
今、俺は“妻の膣”よりも、“妹の声”で勃っていた。
壁の向こうで、妹がオナニーしている。
そしてそれを、俺は……感じてしまっている。
俺と嫁のセックスに、
妹の喘ぎが混ざっていく夜が、始まった。
それからというもの、
俺は夜が怖くて、夜が欲しくなった。
シーツをめくる音、寝息の変化、壁越しの湿度。
すべてが“妹の声”を探しはじめていた。
夜、2時過ぎ──
呼吸を止めて耳をすませる。
くぐもった吐息。
間隔の狭まる布の擦れる音。
そして──
「……んっ……ふ、っ……」
妹だった。
自分の部屋で、ひとりで。
でも、それを“俺に聞かせている”ようなタイミング。
指が濡れている音さえ、壁を通して届いてくる。
「やばい……」
俺の中の“男”が、反応していた。
隣の嫁は、俺の横で眠っている。
俺は布団の中で勃起したまま、妹の声を聴きながら、
呼吸を抑えて、自分の下腹部を握りしめた。
「イく……」
ある夜、俺は気づいた。
嫁が──
“あえて聞こえるように”していたことに。
妹の喘ぎ声が壁越しに漏れた瞬間、
俺は身体をこわばらせた。
けれど、嫁の手は俺の背を撫で続けていた。
「……聞こえるね、あの子」
そう言った声は、震えていなかった。
許している──いや、誘っている。
「あなたの欲望、全部わかってるよ」
その夜、嫁はいつもよりゆっくりとキスしてきた。
膣の中はやわらかく、でも奥まで誘い込むような締め方だった。
「隣、開けたままでも……いいよ」
小さな声で、そう呟いた。
息が止まった。
部屋のドアは、半分だけ開けられた。
向こうの暗闇に、妹の気配がある。
でも、目は合わない。
視線じゃなく、呼吸と湿度だけが混ざっていた。
「触れても、いい?」
嫁の手が、俺の手を引いた。
ドアの向こう──そこに“妹”がいた。
俺は、シーツを跨いで──
声もなく、ただ手を伸ばした。
誰の身体かなんて、もう関係なかった。
その夜、俺たちは“家族”の境界を、嫁の手で越えた。
脳内には、妹の顔ではなく──
声と音と、擦れるシーツの暗がりだけ。
誰とも交わっていない。
でも、あの夜から俺は、妹と“音でセックス”していた。
照明は、最初から消されていた。
シーツの感触、肌の温度、重なる吐息。
ただそれだけが、部屋に満ちていた。
俺は、いつものように嫁を抱くつもりだった。
でも──その身体が、本当に“誰”だったのかは、すぐにわからなくなった。
最初に触れた肌は、嫁のはずだった。
でも、その横から、もうひとつの手が、俺の背に添えられた。
膣に沈んだ瞬間、ぬるりと濡れた感触が走った。
けど──その締まりが、“どちら”のものだったのか、断定できなかった。
右の耳元で甘い息。
左の肩に、額が触れる。
誰かの脚が絡まり、誰かの腰が浮いた。
「ん……っ」「もっと……」「奥、きて……っ」
声は重なり、ひとつになった。
俺は、二人を交互に抱いた。
交互なのに、連続。
ひとつの身体に戻ってきたような錯覚。
片方の膣が、俺の興奮を誘い、
もう片方が、それを受け止めてくれる。
どちらも、俺を欲しがっていた。
どちらにも、俺は深く入った。
「……中に出すよ」
そう呟いたとき、
ふたつの声が、重なって「うん」と返した。
どちらの中に出したのか──
それすらも、俺はわからなかった。
でも、
どちらも、満たされていた気がした。
そして俺もまた、
“誰か”の膣で、満たされていた。
朝、俺はベッドの端にいた。
シーツの皺に残る湿度。
微かに残る、混ざった体液の匂い。
隣で寝息を立てていたのは──
たぶん、嫁。
でも、“確信”は持てなかった。
キッチンから音がする。
水を注ぐ音。
ケトルが沸き始める音。
トントン、と、パンを切る音。
妹だった。
いつも通りの朝食の支度。
でも──その手つきは、少しだけ軽かった。
「コーヒー、いる?」
振り返ったその声は、
まるで“何もなかった”みたいな明るさだった。
食卓に並んだトーストと、スクランブルエッグ。
嫁と妹と、俺。
三人並んで、いつもの朝。
けれど、嫁の太ももには、まだ赤い跡が残っていた。
妹の手元には、包丁の先にかすかに震えるリズムがあった。
俺は、口に運んだコーヒーの味が、
いつもより濃く感じた。
それは、昨夜の“余韻”が
まだ舌に残っていたせいかもしれない。
日常という名の仮面を被った俺たちは、
黙って、優しく、背徳を飲み込んだ。
朝は来た。
けれど、夜は終わっていなかった。
それから、三人の夜は続いている。
“偶然”だったはずの最初の夜が、
今では週に一度の“習慣”になっていた。
照明を落とし、ドアを閉めずに、
誰が先に触れるかを決めないまま──
誰かの吐息に、誰かが応える。
名前も、役割も、関係も、
すべてがシーツの上で平らに溶けていく。
ある夜、妹が先にベッドに潜り込んだ。
嫁は何も言わずにキスをしてきて、
俺の手を、その奥へ導いた。
挿れたのは──どちらかだった。
どちらでもなかったのかもしれない。
どちらも濡れていて、
どちらも「そこがいい」と呟いた。
朝が来るたびに、日常のフリは上手くなった。
三人でテーブルを囲み、
コーヒーの香りに、昨夜の記憶をかぶせる。
でも、身体は忘れない。
膣は、挿れられたことを覚えている。
喉は、喘いだ声の余韻を抱えている。
そして俺もまた──
誰を抱いたのか思い出せないまま、
三人の温度を、毎晩求めている。
壊れたのは、関係じゃない。
“境界”だった。
そしてそれは──
壊れたままが、ちょうどよかった。
春の終わり、
二人から──同じ日、同じ空気のなかで
妊娠の報告を受けた。
「できたよ」
と、嫁が笑った。
「……あたしも」
と、妹が視線を逸らしながら呟いた。
誰の子かは、聞かれなかった。
俺も、答えなかった。
けれど、膣が覚えていた。
俺のものを、受け入れた夜を。
誰よりも、深く沈んだ夜を。
嫁は、お腹に手をあてて言った。
「あなたの子でしょ? ねぇ、そうよね?」
妹は黙ったまま、
その隣で、膝を抱えながら
同じ場所にそっと手を添えた。
三人の生活は、変わらなかった。
朝はパンとコーヒー。
夜には、明かりを消して──
ただ、違ったのは
ふたりの下腹部が、ゆっくり膨らんでいくこと。
シーツの中、抱き合うたび、
俺はどちらが“母親”になるのかを問うのをやめた。
そんなこと、どうでもよかった。
夜、嫁が俺の耳元で囁いた。
「赤ちゃんがいても……私、したくなるの。変かな?」
妹は、その隣で頬を染めながら囁いた。
「お腹にいるのに……膣が、締まっちゃうの……」
俺は、二人を同時に抱いた。
妊娠していても、
この関係は、終わらなかった。
むしろ、ますます深く──
“戻れない場所”へと潜っていった。
終わりなんて、とうに無かった。
