「今日……帰りたくない」
彼女がそう言ったのは、終電がもうすぐ終わる頃だった。
目元の赤いアイシャドウは少し崩れて、香水の甘ったるい匂いが少し強く感じる。
小柄な身体を俺の腕に絡ませて、上目遣いで見つめてくるその顔は──
どこか、壊れそうで、抗えなかった。
「じゃあ、うち来る?」って言ったのは、たぶん俺の方。
でも、本当に求めていたのは、彼女だった気がする。
———
鍵を開ける音、無言でついてくる足音、ヒールを脱ぐ音。
「ねぇ、……キスしていい?」
部屋に入ってすぐ、彼女が背中から俺に抱きついてきた。
首元に顔をうずめるようにして、甘えるような、でもどこか怖がるような声だった。
そのまま、唇を探すように、俺の顎に小さなキス。
自然と向き直った俺の口に、彼女の舌が入り込んできた。
濡れて、熱くて、どこか必死で、苦しそうだった。
「さみしかった……今日も、いっぱい、さみしかった……」
そう言いながら、自分でワンピースの肩紐をずらして、ブラの中に俺の手を導いた。
柔らかくて、細くて、震えてる。
でも、胸の先だけは、指先に吸い付いてくるみたいに固くなってた。
「もっと、強くして……痛いくらいで、ちょうどいいの……」
言葉と裏腹に、身体は逃げそうになってた。
でも、自分で脚を絡めて、ベッドの上に倒れ込むようにして──
「ねぇ……お願い……嫌いにならないで……」
パンツをずらす指が震えてて、そのくせ、俺の手を導く動きだけは止めなかった。
指先に触れたそこは、もう濡れてて、熱かった。
ゆっくり指を入れると、彼女がぴくっと震えて、小さく涙がにじむ。
なのに腰は俺の指を追いかけるように揺れて、目を伏せながら、声を殺すように喘いでた。
「ん……ふっ、あ……んっ……や、やばい……の……っ」
俺が服を脱ぐのを見ながら、彼女も下着を外して、自分から足を開いた。
でも、顔は見せない。枕に顔を押し付けて、声だけが部屋に響いてた。
「だめ……でも、お願い……して……」
中に入った瞬間、彼女がびくんと跳ねた。
一度深く押し込むたびに、腕の中で泣くような声が漏れて、でも腰だけは俺を離さなかった。
「壊れてもいいから、……壊して……」
言葉が刺さった。
そんなこと言われたら、本気にならないわけがない。
何度も、何度も、奥まで突き上げて、
彼女が爪を立てるたびに、その感触ごと、彼女の不安ごと、俺の中に刻み込むように貫いた。
「大丈夫……俺は、ここにいるから……」
彼女が涙を流しながら笑ったのは、俺が中で果てたあとだった。
「……好きになっちゃったら、どうしようね」
朝方、彼女はそう言って、俺の胸に頭を乗せて眠った。
あれから何度も抱き合ったけど、あの夜ほど甘くて、壊れそうなセックスは──
まだ、ない。