洗濯カゴの底に沈んでた匂い

やめたほうがいいって、ずっと思ってた。
それでも、足が勝手に動いて、洗面所のドアをそっと閉める。部屋の中はもう誰もいなくて、廊下の電気も落ちてる。いつもより空気が重い。

洗濯カゴの前にしゃがみ込むと、ほんの少しだけ洗剤の匂いが残ってる気がしたけど、その下からじっとりと違う匂いが立ち上ってきた。
カゴの底に溜まってた、今日脱ぎ捨てられたばかりの下着たち。

俺はゆっくりと指を沈める。タオルやシャツをかき分けて、いちばん下――。一番くしゃくしゃに丸められてるやつに触れた瞬間、手のひらが湿った。

思わず息を止める。
そのまま、誰にも見られてないことを確かめるみたいに、静かに振り返る。

「……っ」

指先だけでつまんだはずなのに、思ったよりも重い。
冷たいけど、ちょっとだけ、体温が残ってるような気がした。下着の中に指を差し込むと、柔らかい生地にじっとりとした感触。

“まだ、濡れてる”

本当にダメだ、って頭で思ってる。でも、体はもう止まらない。

下着を顔に近づけると、ほのかに女の子の甘い匂いが混ざってる。
それだけじゃなくて、今日一日中つけてたであろう体温、汗、そして――ほんの少しの生臭さ。

「……ぁ」

小さく吐息が漏れる。
自分の鼻先に下着を押し当てたまま、目を閉じると、
頭の中が真っ白になる。

――鼻の奥がツンとする。汗の混じった独特の匂い。生理前なのかもしれない。
じっとりと湿ったクロッチ部分。そこを指で軽くなぞってみると、粘り気がある。

指先を見てしまう。
照明が暗いから、色はよくわからないけど、手のひらに移った温度が、ゆっくりと自分の手全体を包んでいく。

何やってんだ、俺。
だけど、もう止められない。

思いきって、もう一度、鼻を押しつける。
匂いが、脳まで突き刺さる。
自分でも笑っちゃうくらい、下半身が反応してるのがわかる。

――誰にも見られてないのに、すごく恥ずかしい。
でも、その恥ずかしさが、さらに興奮を煽る。

心臓がバクバクする。
喉が渇く。

もう一度、深く息を吸い込む。
「はぁ……」
体の奥から、熱い息が抜けていく。

指でクロッチ部分を何度もなぞってみる。
手が湿って、少しぬるっとしてる。
そのまま指を舐めてみたい――けど、さすがにそこまでは怖くてできない。

下着をぎゅっと握りしめる。

一歩間違えば、バレる。
このまま洗濯が始まれば、何事もなかったように全部きれいになってしまう。
だけど、今だけは俺のもの。

誰にも渡したくなかった。

ベッドに戻ると、下着をポケットに隠したまま、しばらく動けなかった。
呼吸が荒い。
体全体が火照っているのに、汗が背中をつたうのを感じる。

――次も、きっとまたやってしまう。
自分でも怖い。
でも、この背徳感が、俺にはどうしようもなく中毒だった。

布団に顔をうずめて、もう一度、下着の匂いを嗅いだ。
夜が明けるまで、何度も。

洗濯カゴの底に沈んでた匂い