……本当は、ただのゴミのはずだった。
風呂上がりの誰もいない脱衣所。洗濯機横の小さなゴミ箱の隅に、丸められずに捨てられていた、一枚のオリモノシート。 何気なく指で触れた瞬間、指先にヌルッとした重たい感触が残った。まだ新しくて、生々しい湿り気。 それを鼻に近づけた瞬間、脳の芯が痺れるような、濃密な女の匂いが立ち上った。
「……っ、……」
アンモニアの臭いじゃない。もっと甘酸っぱくて、蒸れたような、剥き出しの粘膜の匂い。 これが、誰のものなのか。 いつもお節介な母なのか。それとも、最近急に女らしくなった姉か。生意気な口ばかり叩く、反抗期の妹か。 三人の女が住むこの家で、今、このシートを汚したばかりの主が、壁一枚隔てた廊下を歩いているかもしれない。
私はそのシートを握りしめたまま、トイレに駆け込んで鍵をかけた。
「……っ、はぁ、……っ、……」
ズボンを下ろし、自分の硬くなったところに、その湿ったシートを直接押し当てる。 シートに染み込んだ、誰かの愛液のヌルヌルが、私の亀頭にズリズリと擦りつけられる。 「じゅちゅ、……っ、じゅるっ」 狭い個室に、不織布と粘膜が擦れ合う、卑猥な摩擦音だけが響く。
「母さん、……いや、姉貴か? ……もしかして、……っ」
顔を思い浮かべるたびに、匂いが形を変えるような気がした。 母の少し落ち着いた、でも脂っこい匂い。 姉の、香水と混ざり合った、ツンとした刺激的な匂い。 妹の、まだ幼さが残る、でも一番生臭い、瑞々しい匂い。 誰かわからないからこそ、三人の女全員に犯されているような、底なしの背徳感がこみ上げてくる。
「っ、あ、……っ、あ、……っ!」
シートを指で強く押し当てて、先端をしごき上げる。 シートに吸い取られた液が、私の摩擦でまた滲み出し、指の間をぐちょぐちょに濡らしていく。 「ぐちゅ、じゅるっ、……っ、……!」 自分の精液じゃない、自分以外の誰かの体液で手が汚れていく感覚。 その主が、今、リビングで何食わぬ顔をしてテレビを見ているという事実が、理性を焼き切っていく。
「……出す、……っ、誰のでもいい、……っ、ぶち撒けてやる……っ!」
限界まで張り詰めた瞬間、私はそのシートを握りしめたまま、一気に自分の液をぶちまけた。 ドクドクと脈打つ振動と一緒に、熱い精液が、誰かの愛液で濡れたシートの上に大量に重なっていく。 生温かくて、生臭い、二人の体液が混ざり合った匂いが、狭いトイレに充満した。
……終わった後の、あの急激な静寂。
精液と愛液が混ざり合って、ドロドロになったシート。 それをトイレットペーパーで何重にも包んで、奥の方へ押し込む。 手についたヌルヌルを、石鹸で何度も何度も洗ったけれど、指先の奥にはまだ、あの誰のものかわからない匂いがこびりついて離れない。
トイレを出てリビングに向かうと、三人が普通に座っていた。 「遅かったわね、お腹空いてないの?」 母の声。 「ちょっと、いつまでトイレ占領してんのよ」 姉の視線。 「……なんか、変な匂いする」 妹の呟き。
私は答えられずに、俯いて席につく。 下着の中に残る、拭いきれなかった湿り気と、あの誰かの残した熱。 この家の中に、私の精液と混ざり合うべき液を流した「誰か」がいる。 その確信だけが、私の日常を、二度と戻れない泥濘へと引きずり込んでいた。
これが、家のトイレで見つけた一枚のシートから始まった、終わらない妄想の記録。