夫の弟――いわゆる義弟が、うちに居候することになったのは半年前のことだった。
就職が決まって上京してきたけど、最初は家賃を節約したいってことで、
夫が「しばらく家にいさせてやってくれ」って。
正直、気は進まなかった。
年下の男が家にいるのって、なんとなく気を遣うし、
私はもう30を過ぎてたし、そんなに色気があるタイプでもないから。
でも、彼――直人は、想像してたよりもずっと無口で礼儀正しくて、
食器を片付けたり、洗濯物を運んだり、私よりもよっぽど几帳面だった。
それでも、気づいてた。
私がパジャマのままキッチンに立ってるとき、
ソファで足をくずしたとき、
直人の視線が、明らかに私の脚や胸元に落ちているのを。
最初は気のせいかと思ったけど、ある日、洗面所で私の下着の位置が微妙にずれているのに気づいて、
私はすべてを確信した。
だけど、夫に言うことはできなかった。
言葉にしたら、戻れなくなる気がして。
それに、どこかで私は、見られることで満たされていたのかもしれない。
夫が出張で数日家を空けることになった夜。
夕食を済ませて、片付けをして、リビングに戻ると、
直人が珍しく酔っていた。
「……ごめんなさい、変なこと言っていいですか」
不意にそう言われたとき、私の心臓は跳ねた。
「いつも、見てました」
「〇〇さんのこと……女として、見てました」
耳の奥で、何かが崩れる音がした。
私もまた、口にしてしまった。
「……忘れて。今だけなら、見逃してあげる」
ソファに座る私の横に、彼が膝をついた。
スカートの裾をそっと持ち上げられたとき、
下着を穿いていなかったことに、彼も気づいた。
それが、無意識だったのか、準備だったのか……もうわからなかった。
「ダメよ、何してるの……」
「止めたいなら、今言ってください」
彼の唇が、私の太ももに落ちたとき、
そのまま腰が浮いてしまった。
その夜、私は夫の弟に抱かれた。
彼の指が、私の奥を探るたび、
「ごめんなさい」と「もっと奥まで」が頭の中で交互に鳴っていた。
行為の最中、私は目を閉じて、
まるで夫に抱かれているふりをした。
でも、中がきゅうっと締まるたび、
夫ではないことを、身体の方が喜んでいた。
終わったあと、彼は泣きそうな顔で謝った。
「ごめんなさい、もうしません。……でも、忘れられないと思います」
私も、なぜか笑ってしまった。
「私も、忘れないと思うわ」
あれは一度きりの出来心――
そう言い聞かせた。
自分にも、そして彼にも。
でも、嘘だった。
あの夜から、私の身体は“夫じゃない方”に反応するようになってしまった。
直人は、それからしばらく私に近づこうとはしなかった。
会えば、目を逸らし、距離を取り、まるで何もなかったかのように振る舞っていた。
でも、それが逆に辛かった。
だって私は、あの感触を、まだ覚えている。
唇の熱、指の動き、奥を突かれたときの快感……
夫とはもう何年もセックスしていなかったのに、
直人の時は、恥ずかしいくらい声が漏れていた。
だから、あれから10日後。
夫が夜勤で家を空けた夜、
私は自分から声をかけてしまった。
「ねぇ……あの時のこと、もう一回だけって言ったら、怒る?」
直人は黙ったまま、うつむいていた。
でも、私がゆっくりTシャツを脱ぎ始めると、
彼の瞳が真っ直ぐ私を捉えた。
今度は、ベッドだった。
夫と私が寝ている部屋。
「……ここでいいの?」
「……だめなの、分かってる。でも、それがいいの」
舌で胸を転がされるたび、体がびくびく震えた。
夫には一度も舐められたことのない場所を、
彼の舌が何度も何度も味わっていく。
「奥……当たってる……んっ……だめ、そこばっかり……」
腰を打ちつけられるたび、膣の内側が擦れて、
絶頂が迫ってくるのがわかる。
「中で出しても……いい?」
「……だめ……って言っても、止めないんでしょ……」
ぎゅうっと抱きしめられて、
吐息とともに熱いものが溢れた。
終わったあと、シーツに染みた体液の中で、
私たちは何も言わずに、ただ呼吸を整えていた。
「やめなきゃね……」
「……うん、今度こそ最後」
でも、数日後。
夫のいない夜、また私たちは同じベッドで重なっていた。